前回は音源紹介に終わってしまい本の紹介ができなかったので、今回はちゃんとやります。
83冊目。
アジカン好きな私で、つまりはゴッチが好きなわけでもあるのだけど、彼の文章はある時期から一切読まなくなった。ゴッチ語録以来だと思う。
久しぶりに読んでみて、文章が随分と小説家っぽくなっているなと思った。文の修飾がすごい。語彙も豊富で、普段から本を読んでいるんだなーと感じる。ユーモアがふんだんに盛り込まれているのは昔と変わらない。
ただ、ちょっとくどい。修飾に力が入りすぎて話のテンポが遅い。読み飛ばしたところもいくつかある。いや、そもそもエッセイというのはそういうものかもしれない。最近の俺が異常なせっかちになってることも関係しているかもしれない。
ファンとか言ってたくせにディスってんじゃねえよ。でもそう感じたんだからしょうがないし、文のスピードはあれでも内容は面白かったからそれを書くね。
凍った脳みそ、コールドブレインとは、ゴッチが作った自分のスタジオの名前。本書ではそこで起きた様々な出来事が、面白おかしく綴られている。アンプにカビが生えたり、ゴキブリが発生したり、若いミュージシャンに生意気な態度を取られたりなどなど。
そんな面白エピソードの隙間に見られる真摯な態度が好きで、特に興味深かったのが「他者への想像力」だった。
読んで驚いたのだけど、音楽機材ってすごく高い。物によっては3桁の諭吉さんが飛んでいくとか。また、定期的に有料アップデートしないと使えないソフトウェアなどもあり、音楽でやっていくということは実に出費が多いという感想を持った。それでも、ゴッチは出すんですよね。そらミュージシャンだから出すに決まってんだろと言うかもしれないけれど、安く済ませる方法はあるわけだ。そんな中でも、しっかりお金を払って機材を買う。それはゴッチのより良い音楽を作りたい情熱であると同時に、「ちゃんと音楽業界にお金を落とさないとどんどんダメになっちゃうよね」と言う思いが元にある。
私なんかほとんど考えないんだけど、買い物とは投票行為である。普段の何気ないお買い物も、実はその商品やサービスを支えることになる。商店街がどんどん潰れていくことに悲しみを覚えている君よ、最後に商店街のお店で買い物をしたのはいつだったか。
朝のすき家で納豆定食を注文した著者は、たった一人で働く疲弊したおばあさんに想いを馳せる。格安ですごく美味しい定食が食べれるということは消費者にとっては嬉しいことだけれど、サービス提供者にとってはその価格を維持するために人件費を削減しなければならない。おばあさんが呪いのようなオーラで働く環境を作ったのは、私たちかもしれない。そんな想像をし、どうか心優しいスタッフが仲間に加わりますように、そして時給が上がりますように、と祈る。
正直ちょっとめんどくさい人なんだろうなあとは思っている。6、7年前だろうか、彼が作った新聞を渋谷タワレコ前で彼自身が配っていたことがあって、もちろん大ファンであった私はドキドキしながら向かい、ついに対面した。意を決して声をかけて無料配布の新聞をいただいた。その時彼は、私の目を見てくれなかった。ちょっと傷を負った。
まあそれはいいとして笑、それでも、被災地に行ってライブをしたり、自分でレーベルを作ってDr.DOWNERほかいろんなバンドをプッシュしたり(Dr.DOWNERはいいよ!思春期でくすぶっている若者にオススメ!特にライジングがいいぞ!)、新聞を作ったりと人や社会に関心を持って活動しているその奥には、他者を思いやる想像力がある。素晴らしい歌詞を作る能力とそれは密接に関係していると思う。
アジカンファン、ゴッチファンは読みましょう。
ちなみに、俺はエッセイよりも音楽の方が好きです。12月に発売されるニューアルバムを心待ちにしておりますぜ。