文化人類学がマイブームだ。
前回は、小川さやかさんの本でタンザニアを学んだ。今回は、アマゾンの熱帯雨林で生活するピダハンの話。
- 作者: ダニエル・L・エヴェレット,屋代通子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2012/03/23
- メディア: 単行本
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アメリカ人のキリスト教伝道師兼言語学者である著者が、30年以上に渡ってピダハンの村を訪ね、生活を共にした記録。彼らは私たちとまったく異なるカルチャーで生きている。
例えば、彼らは私たちのように長時間眠らない。ちょこちょこ睡眠を1日中繰り返す。理由は2つあって、睡眠が短い方が強くなると信じていること。もう1つは、熟睡してしまうと蛇や恐ろしい敵に襲われて死んでしまうからだ。まさにタイトル通り、don't sleep, there are snakes なので、夜中でもピダハンの話声はあちこちから聞こえてくる。
例えば、彼らは性に奔放だ。結婚している場合は当然配偶者と性交するが、浮気もある。その場合、二人で共に数日間村を離れる。その間、残された方は嘆き悲しみ、相手を探す。しばらくして二人が戻って来て、そのあとも一緒に生活するようならそれは前の伴侶と別れたことを意味するし、元の相方の方へ戻ることもある。残された方がそれを許すかどうかは人による。ただ、その浮気の行為自体が社会的に蔑まれたり、文句を言われることはないらしい。比較的容易に離婚し、再婚する社会。また、歌や踊りの際には乱交が行われる。よって、同じ村の中には、自分と性交渉をした人が多数いるという状況になる。そのせいか、彼らは基本的に皆仲が良く、全員が親しい友人同士に見えるという。すごい世界だな。。。
例えば、彼らは数を数えられない。著者が8ヶ月間教えても、1から10まで覚えることができない。足し算もできない。
例えば、彼らには適者生存の文化がある。私たちは子供を大切にする傾向があるが、彼らは特別扱いはしない。2歳児がナイフを持って遊んでいても誰も注意しないし、それによって怪我をしても、それが学習の機会だと捉える(怪我した後で、思い切り叱って治療を施す)。最悪そこで命を落としても、それはもうそういう運命だったのだと受け入れるのだ。また、子供も一人で産むのが基本なのだが、その際に痛みや助けを求めて悲鳴をあげても、周りは助けない。それで死んだら死んだで、そういう運命だったのだと受け入れる。ちなみに彼らの平均寿命は、45歳。日本人の約半分だ。
ピダハンが信じるのは、己の力のみ。人に助けてもらうことはほとんど考えていない。自分の身体、力が尽きた時は死ぬ時だ。
そんな厳しい世界だが、彼らはとても穏やかで、笑顔が絶えないという。幸福度はとても高く、よそのカルチャーを受け入れることなく毎日漁に出て、食べ物を獲得して生きている。
面白いのが、最終的にキリスト教を布教しにきた著者が、無神論者に転向したことだ。彼がいかにキリスト教の素晴らしさを説いても、ピダハンには通じなかった。なぜかというと、ピダハンは「直接体験」を最重要視し、それ以外のものに関心を示さないから。
「イエス様はとても素晴らしいお方なんだ」
「ほう、なるほど。ところでお前はイエス様に会ったことがあるのか」
「いや、ない。ずっとずっと昔の人なんだ」
「そうか、お前は会ったことがないのか。じゃあどうでもいいな」
なんとシンプルだこと。彼らの生活圏にはテレビもなければラジオもない。映像がない。本もない。大事なのは、今、この現実のみ。だから過去にも未来にもほぼ関心がない。今を生きる。辛いことがあっても、笑って受け入れる。まさに、Living for todayの世界。そんな姿勢に、著者は感化された。目に見えないものを信じるという信仰よりも、直接体験と実証に重きを置くピダハンの価値観に感銘を受けたのだ。結果、彼は無神論者になり、家族は崩壊してしまった。
まとめ
すごく面白かった。こんな世界があるんだな。一度行ってみたいと思ったが、30分で発狂しそうなのでやっぱりやめておく。だって、アナコンダもいるし、羽虫はずっと飛んでいるらしいし、眠っている間にゴキブリやタランチュラが身体を這うらしい。耐えられますか?私には無理です!