atoiuma’s blog

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ケーキの切れない非行少年たちを読んで思ったこと

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11月になった。すっかり涼しくなって、とても過ごしやすい。

 

私は暑がりなので、基本的に半袖で動き回っている。すると会う人会う人みんな「寒くないの?」「大丈夫?」「マゾなの?」と聞いてくる。終いには見知らぬギャルから「何あれ、半袖なんだけど!やばくない?笑」と笑われる始末だ。やかましいわ!

 

思えば引きこもり脱出したばかりの頃は、そういう言葉が気になって暑いのに上着を着ていた時代もあった。自分の幸福を追求するのが人生なのだから、他所様の言葉なんて流しときゃ良いのにねえ。今は自分の欲求に従って生きているのでストレスは大きく減った。そういえば、先日落合陽一さんが「みんな違って、みんなどうでもいい」とツイートしてて、良い言葉だなと思った。ほんと、どうでもいい。

 

さて、そんな素敵な季節に、素敵な本に出会った。帯の衝撃度がすごい。とても面白かったので、感想を。 

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

  • 作者:宮口 幸治
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: 新書
 

「反省以前」の子供たち

悪いことをしたら、反省をする。一見それは当たり前のように思えるが、実は自己内省の能力が必要になる。内省能力がない人たちにとって、反省することはとても難しい。

 

帯に書いてあった、三等分したケーキの図。あれを書いたのは、窃盗や強姦、殺人などの犯罪を犯して少年院に入った中学生や高校生たちである。当然ふざけているわけじゃない。真面目に考えて、あのような切り方になってしまう。そこには、認知機能の欠陥がある。

認知機能とは、記憶、知覚、注意、言語理解、判断・推論といったいくつかの要素が含まれた知的機能を指します。人は五感(見る、聞く、触れる、匂う、味わう)を通して外部環境から情報を得ます。そして得られた情報を整理し、それを基に計画を立て、実行し、さまざまな結果を作りだしていく過程で必要な能力が認知機能です。つまり、認知機能は、受動・能動を問わず、すべての行動の基盤でもあり、教育・支援を受ける土台でもあるのです。 p.49-50

例えば、「ガンつけてんじゃねえぞこら!」と食ってかかってくるタイプの人。私も経験があるが、もちろんこちらから睨みつけるわけがない。むしろ、向こうのほうが何百倍も怖い目つきをしている。なぜそんな頓珍漢なことが起こるのか。それは、彼らに「見る力」が欠けているからだ。うまく見えていないので、想像でより悪い方にイメージしてしまうらしい。

 

個人的に衝撃的だったのは、認知行動療法は、ある程度の認知機能を持った人にのみ有効という指摘だった。逆に言えば、認知機能に問題がある人に効果はないのである。世の中には、認知行動療法ではリーチできない層がいることは知らなかった。

 

認知機能が欠けた人たちに反省を促したり、一般レベルの作業や勉強を求めることは無意味だし、向こうにとってもわからないことだらけでとてもストレスなのである。これは個人的にとても大きな発見で、今まで生きてきた中で違和感を覚えた人たちのことが、ストンと腑に落ちた。

 

成長の鍵は、自己への気づきと自己評価の向上

認知機能に問題があると、いろんなことがうまくいかない。勉強、コミュニケーション、運動。。。失敗して恥をかいたり、周りから怒られたりが日々起きる。すると、居場所がなくなって非行に走ったり(悪いことをすると面白がられ孤独が癒えるので、そのためにやっている人もいる)、自信を失って投げやりになってしまったり、溜まったストレスの吐き出し口として幼女を襲ったりしてしまう。

 

彼らは本来早期発見され、適切な教育や治療を受けるべきなのだが、今の日本教育ではスルーされる傾向にある。結果、彼らが発見されるのは犯罪を犯して少年院に入ったあとになることが多い。とても悲しいことだが、それが日本の現実だ。

 

そんな彼らが適切な教育や支援を受けると、徐々に回復がみられることがある。それはケースバイケースでいろんなパターンがあるのだが、大きく分けると、「自己への気づき」「自己評価の向上」の2つに分けられる。

 

自分が変化するためには、まず自分の現状を把握しないといけない。窃盗や殺人、強姦をする自分は間違っていると言う認識を持たない限り、人は変わらないのである。逆に言うと、気づけば、そこからは変化していくことができる。自己への気づきはとても大事。

 

次に、自己評価の向上。周りの人から馬鹿にされたり虐められ続けてきた彼らには自信がない。しかし、当然彼らにだって向上心はある。適切な認知能力を鍛えるレッスンを踏めば、どんどんできることが増えてくる。成功体験が集まってくれば、自信も獲得できるのである。

 

「自己への気づき」と「自己評価の向上」が成長の鍵というのは、元引きこもりであった私の経験からも納得できる。引きこもってから本を読み始めたり、ものを考えたり、日記を書き始めた私にとって、いろんなことが自己への気づきとなった。それは今でも続いていて、自分が変わるきっかけになったり、今の大きな原動力である好奇心に繋がったりしている。

 

また、自己評価の向上も引きこもり脱出に大きく役立った。ざっくり言えば、自己肯定感がゼロになってしまい、被害妄想に取り憑かれたから私は引きこもったのであった。兎にも角にも自分自身をいじめるのが得意で、自殺スレスレまで追い込んだ時代もある。そんな時手にとった脳科学の本に「他者との比較世界で生きなくても、昨日の自分より今日の自分が少しでも成長していれば脳は喜ぶ」と書いてあり、それが希望となった。そこからはなるべくマイペースに生きるように気をつけて試行錯誤を重ねた。すると徐々に状態は回復し、気づけば一人で海外に出かけていた。小さい成功体験の積み重ねが自信を育み、行動を変える。少年院の子供たちが成長するきっかけが、自分の引きこもり脱出の時のものと似ているのはとても面白いと思った。

 

犯罪者を納税者へ

この一節には思わず笑ってしまった。面白いことを言うなぁ。 

 

でも、その通りだと思う。前に書いた通り、本来は早期発見早期治療されるべき子供たちがスルーされ、犯罪を犯した後に発見されるケースが多い。これは社会にとっても、そしてもちろん本人たちにとっても大きな損害だ。なんとかしてそこを救い上げられるようなシステムがあればいいと思うけど、先生たちも残業やら何やらで大変みたいだし、いろいろ難しいんだろうな。少子化の日本だからこそ、きめ細かい教育や支援ができたら素敵。

 

まとめ

キャッチーなタイトルと帯でどんな内容かと思ったら、とても真面目に書かれた教育の本だった。親御さんはもちろんのこと、一般の人も面白く読めると思う。

 

成長ってのは実はシンプルで、「分からないところ、できないところまで戻って、訓練して、クリアして達成感を得て次に行く」ことなんだなと。周りとの比較ではなく、自分との比較を。