マザー2を終えた。泣いた。感動が冷めないうちにおしゃべりしたい。今日はそんな回です。多分すごく長くなる。
まず、なんで今更1994年発売の古いゲームに手を出したのってことだけど、糸井さんのこの本を読んだらマザー2がやりたくなったから。
この本で衝撃だったのは、糸井さんが父子家庭で育ったということ。物心つく頃には、お母さんが出て行ってしまって父親とばあさんに育てられたと。小学生2、3年生の時に父親に再婚話が持ち上がり、継母ができたけれど、なかなかうまくいかなかったようで。生みの母と育ての母がいるのに、抱きしめられた記憶がない。私が持つほぼ日糸井さんのイメージとはかけ離れた子供時代。
そんな糸井さんが作った名作RPGマザー2を語ろう。
と言っても、いっぱい魅力があってどこから語っていいのやら。難しいな。
よし、最初はドラゴンクエストとの対比方式でいきましょう。糸井さんがマザーを作った入り口もドラクエだからね。
ドラクエの主人公は、勇者だったり勇者の父だったりする。魔王を倒して世界を平和にしましょ、という大筋があって、冒険の途中で仲間を増やして共に協力し、最後は力を合わせて悪の大王をぶっ飛ばす。その物語の主人公を体感できるゲーム。
マザー2もギークという悪者をぶっ倒す話なんだけど、ドラクエと違ってすごく主人公に感情移入できるんですよね。主人公ネス君はウィキペディアによると12歳。早い子は思春期に入ってる年齢。その子が親元を離れて冒険に出るわけです。そしたら何が起こるか。ホームシックになっちゃう。ママが恋しくなって戦闘どころではなくなってしまう。ドラクエでいう状態異常。それを治すためには、ママに会いに行くか、電話で声を聞く。実家に帰ると、お母さんが自分の大好物を作ってくれたりもする。このシステムは最高だと思ってます。なんてリアルなんだと。まさにマザー。
リアルといえば、ドラクエではライフポイントを回復するために「薬草」や「アモールの水」なんてものを使います。体にいいんだろうなあってのはわかるけれど、私たちの日常からは遠い世界。一方マザー2は、「ハンバーガー」「ピザ」「ほしにく」「スキップサンド」などなど。すげえ日常。食ったらエネルギー出るっていうのが自然にわかる。スキップするほど美味しいスキップサンド、食べてみたいわ。
さらに、ドラクエではなぜかモンスターを倒すとお金がもらえる。経験値はわかるが、なぜお金?この違和感をマザー2はしっかり解消してくれている。マザー2の場合、ネスのお父さんが銀行に振り込んでくれるのだ。そうだよね、12歳の子供が冒険に出るのだ、お金は親が工面するのが自然だ。面白いのが終盤になると、5万ドル振り込んでおいたからね、なんて台詞が飛び出す。おいおい、12歳に500万はあかんだろっていう。
つまり、マザー2は身近なんですよ。ネス少年の成長物語にみんな自分を重ねることができる。ハンバーガー食べて、ホームシックになって、でも記念写真撮影の時は笑顔でピース!どこか自分の過去を見ている懐かしさがあって、それで音楽なんかもいいものだから、グッときちゃうところもあって。
戦闘システムもちょっと面白い。ドラクエはコマンド式で、言ってみればすごくノーマルなもの。ライフポイントが100あって、150のダメージを受けたらゼロになって死んでしまう。マザー2の場合は、コマンド式は一緒だけれど、100あって150のダメージを受けてもすぐには死なない。ライフポイントが9、8、7と1ずつどんどん減っていって、ゼロになる。そのわずかな時間に回復させればダウンしないですむ。つまり、スピード重視の戦闘システム。だからとにかく早く選択して入力することが勝利のコツになっていて楽しい。ファイナルファンタジーともまた違ったおもしろシステム。ただ難点があって、全体的に命中率が低いので、それはちょっとイラっとすることもある。
はい、ではここらでドラクエ云々を終わりにして、糸井節について語りましょう。
間違いなくマザー2を面白くしているのは、糸井節です。糸井さんの言葉じゃなかったら、こんなに多くのファンは付いていないはず。コピーライター糸井重里が繰り出す多くのユーモアと詩的な表現がこのゲームの価値をグッとあげています。
有名なところでは、「アルプスの少女、〇〇ジ。ここに当てはまるのは?」というものがある。こちらが選べる選択肢は「はい」「いいえ」の2択。もちろん正解は「ハイジ」になるわけだけれど、ここを「いいえジ」と答えると、「いいえジってことはないだろ」とツッコミが入る。このくだらなさがたまらない。
すごくいいセリフの例でいうと、もうラストのママの手紙に決まってる。これは俺、クリアしたの3回目だけどやっぱり泣いちゃうんだよな。長いけど引用したい。
ネス げんき?
あなたが
ぼうけんのたびにでてから
いろいろ わがやにも
へんかが ありました。
ひとつは
あなたの せんたくものが
へったこと。
もうひとつは あなたがいないので
カオマンガイ(ここにはプレイヤーが選んだ大好物の名前が入る)をたべるかいすうが
へったことです。
ところで グーギとかいう
あくの とりしまりを
たいじしたんですってね。
すごいわ。
ママも はなしを ききたいから
はやく かえってきてね。
トレーシーとヒチチ(ここにはプレイヤーが選んだ犬の名前が入る)と
まっています。
ママより。
これはやばいね。書いている今でも泣いちゃうね。ネスがいなくなったら、そりゃ洗濯物も減るし、彼の好物を食べる機会だって減るよ。当たり前のこと。でも、人がいなくなるってそういうことなんだよね。その人がいたことによって日常に組み込まれていたものが、場面がなくなる。その瞬間って、すごく喪失を感じるんだよなぁ。このゲームに出てくるママはすごく明るくてイケイケで、時にネスのことをおざなりにする調子のいい人なんだけど、ちゃんと息子のことを愛している。だってほら、ネスが冒険に出てからの我が家の変化って全部ネスがいないロストについての話だもの。つまりこの手紙の半分は「お母さんは寂しいです」って言ってるわけ。しかもこの時に流れているBGMがあったかいから余計に涙腺がやられる。さらにさらに、そのあとにラスボスの名前をグーギって間違えているわけ(正式名称はギーグ)。そこでいつもの陽気なお母さんを出してくれるからこっちも涙を流しながらクスッと笑える。そして最後は、ネスの妹トレーシーと愛犬と一緒に待ってるよと。完璧だわこりゃ。この文章を考えた糸井さんの子ども時代に、家で待ってくれているお母さんはいなかったということがまたグッとくる。
お母さんはネスの好物を作って上機嫌で待ってくれている。お父さんは遠くからしっかりと息子を見守り、頑張りすぎるなよと声をかける(長時間プレイしてると電話がかかってくる)。良いなあ。実に心が温かくなる素晴らしいゲームですよマザー2。まさに「大人も子供もおねーさんも」ですね。どの世代がやってもそれぞれに楽しめる名作。2018年現在に1994年のゲームをやって満足できるってすごい話だわよ。
キムタク出てるわ。
最後に。マザー2を語る上で忘れてはいけないのは、今は亡き任天堂の岩田聡さん。この人がいたから、マザー2は完成した。彼の有名な台詞が、私は大好きだ。
「今あるものを活かしながら手直ししていく方法だと2年かかります。でも、一から作り直して良いのであれば、半年でやります」
岩田さんの登場により、難航していたゲーム開発がドカンと進み、みんなの手元に届いたという話。
ああ、好きなことを書く時間は幸せだ。たまにはこういうロングな文章もいい。
このゲームは一人でやるのももちろんだけど、友達やカップル、夫婦でやるのもいいかもしれない。交代でダンジョンを進めながら言葉を味わい、最後に泣け。一緒に最後までプレイできた人とはきっとこれからもずっと仲良くできるよ。
それでは、私のお気に入りの音楽とともにお別れしましょう。どこかでマザー2を語り合いながらお酒でも飲めたらいいね。