熱海が暑いらしい。いや、間違えた。熱海が「熱い」らしい。
ちょっと考えてみれば、熱海が熱いのは当たり前のことだ。熱い海で「熱海」なんだから。もし冷たかったら、冷海になってしまう。
あれ、熱海熱海連呼していたら、熱海がなんだかわからなくなって来た。熱海ってなんだっけ?
熱海とは
熱海というのは、静岡県にある市の一つ。みなさま名前は聞いたことがあるはず。1950年代は新婚旅行のメッカで栄え、60年代は慰安旅行で盛り上がった温泉街。
ところが、バブルが弾けるとともに衰退が始まり、1990年代に群発地震が連続したこともあってどんどん客足は遠のいた。たった半世紀で、観光客は半減、人口も3分の2にまで減少した。
地元民も誇りを失い、観光客が来ても雑な対応、法外な値段の請求。坂の多い熱海は高齢者にとって移動が厳しい。短距離でもタクシーを使う必要があるが、長距離の客じゃないとわかると無愛想な運ちゃん。地元民ですら使わないようにしていたほどにサービス悪化。
とある女性の旅行客が、観光協会にクレーム。
「1日に3回、何もないと言われた」
お土産屋さんにおすすめスポットを聞いても、ない。
タクシーの運ちゃんに聞いても、ない。
終いに旅館のスタッフに聞いても、ない。
ふざけるな!と。
そんな熱海に愛想を尽かし、観光客は減少、若者は街を離れ、移住にやってくるのは高齢者のみ。少子高齢化街道、爆進。夢も希望もありません。。。
そんな悲惨な状態だった熱海が今、V字回復を遂げている。
なぜV字回復できたのか
いくつか理由がある。
例えば、時代のニーズに対応し始めたこと。
上に書いたように、熱海が発展したのは50年代から60年代にかけて。特に慰安旅行で伸びた熱海のスタイルは、とてもシンプル。
熱海駅からバスで旅館にみんなを運ぶ。建物に入れば、そこには食事、カラオケ、温泉、お土産など全てが詰まっている。外に出る必要などない。たっぷり遊んで羽目を外して、翌日またバスに乗って駅まで運ばれて行く。それが主流だった。
ところが、日本経済に陰りが見え、慰安旅行の数が減ると、そのスタイルは苦しくなっていく。どんどん団体客が減り、個人客が増えた。ちなみにこれは熱海だけではなく、全国の温泉街にも同様。
2000年代になると、旅行客のニーズは「体験」がメインとなった。日常とは違う何かを経験すること。旅館に缶詰なんてつまらない!旅館に素泊まりして、ご飯は街を歩きながら気に入ったお店にトライ。そんなスタイルが流行ってきた。
その流れに合わせ、高価格のホテルではなく、リーズナブルな宿泊地を増やした。まち歩きの面白さも用意した。
また、団塊の世代が引退し、熱海へ移住し始めたこともある。移住してくれば当然お金が落ちるようになるし、仕事も生まれる。
しかし、やはり一番大きいのは、熱海が魅力的な街へと変貌したからだ。
どうやって魅力的な街になったか
ざっくり過程を説明すると、
- 地元民が地元の価値を再発見し、熱海を好きになる。
- 地元に誇りを持ち始めると、活気が出てくる。観光客からの評判も上がる。
- かつて熱海の人にとって憧れだった、熱海銀座商店街の復活。
- 面白い人たちを集め、プロジェクトを企画、実行。
- ゲストハウスを作ることで、外からの流入を狙う。
最初はとにかく地元の人が熱海のことを知らず、腐っていた。そこを変えないと、熱海の復活はない。
そう考えた市来さん(著者)は、3年間、地元民に熱海の良さを知ってもらうことに腐心した。熱海の人にとって当たり前すぎる自然が、都会の人にはとても魅力的であること。昭和の雰囲気が残る喫茶店が多く存在し、かの有名な三島由紀夫さんが常連だったお店もあること。干物が美味しいこと。徳川家康が愛した温泉があること。
すると、だんだん熱海に勢いが出てきた。旅行客に聞かれても自信を持って様々なおすすめスポットを言える人が増えていく。それに伴い、ホテルやタクシーのサービスなども向上。
また、シャッター商店街になっていた熱海銀座に、カフェを開くことを決める。熱海銀座は江戸時代から続いているお店もあり、昔は熱海の人にとって憧れの場所だった。そこを熱海の拠り所としてカフェを作り、面白い人たちを集め、さらに活性化させていく計画。
面白さは連鎖する。1つ点を打てば、変わっていく。どんどん閉まっていた店がオープンしていく。
さらに外からもどんどん遊びにきて欲しいということで、ゲストハウスMARUYAをオープン。コンセプトは、2拠点居住のススメだ。旅することと住むことの間。月に1回でも遊びに来てくださいというスタイル。これにより、どんどん外から人が来るようになる。移住する方も、たまに遊びに来る方も、ビジネスを立ち上げる方もいるそうだ。
とっても面白そう。だから私、行ってきます。
まとめ
熱海をこよなく愛する著者が工夫と努力で様々なアクションを起こし、V字回復を遂げている。これは行くしかないでしょう。
一番惹かれたのは、2拠点居住という言葉。熱海を第2の居場所にすることができたらきっと楽しい人生になる。都心から鈍行でも2時間。いいじゃないか。
まあ本を読んだだけだし、熱海を好きになれるかは行ってみないとわからない。ただ、熱海の物語は大変面白く、惹かれるものがある。最近喫茶店が個人的にブームなので、三島由紀夫が常連だったお店にはぜひ足を運びたい。
熱海に関心がある人だけじゃなく、地方活性化に関わる人にもおすすめ。